感冒、インフルエンザ、コロナウイルス感染症などの後に、なかなか改善しない咳が多いようです。精密検査を受けても胸のレントゲン検査や喀痰の細菌や細胞の詳しい検査を受けても原因がはっきりしない頑固な咳の相談が増えてきています。
原因がはっきりしない頑固な咳の背景には、生活習慣の歪が少なからず関係しているように思います。
まず、①僅かな炎症が残っている場合、呼吸器系にほんの僅かな炎症が残っていて乾燥傾向になっている状況で、十分な睡眠をとり3食きちんと食べて安静身体を休めることが肝要です。漢方では、柴胡、黄連、竹じょ、麦門冬、人参、香附子などの生薬を含んだ漢方製剤が使われることがあります。
② 胃腸の疲れが原因で消化不良を来しやすい方です。腹八分目、よく咀嚼することが一番です。漢方なら朮、茯苓、人参、甘草などを含んだ胃腸の働きを整える薬(補脾剤)が挙げられると思います。
③ 胃腸や肺や気管支が冷えている場合です。肺中怜といって胃腸や呼吸器系が冷えて咳き込む場合ですが、温性食品を心がけて食卓に並べることが良いでしょう。また乾姜や甘草を含む身体の芯から温めるパワーを持った補脾剤が使用されることもあります。
④ 身体の老化のスピードが加速し始めると呼吸筋のはたらきが落ちて咳き込みが起こることがあります。東洋医学的には、腎虚と言って吸気時に咳き込みが起こることが特徴です。睡眠時間をしっかり取って早寝早起きにより体内時計を調節することが大切です。また、筋肉が落ちないように身体のバランスに応じた蛋白質やビタミン、ミネラルを食事で補いながら、血糖値の乱高下が起きにくいようにする意味で、甘い物や果物を空腹に取らないように、できれば食後にとってその後、身体を動かして血糖値の急上昇を予防することが大切です。漢方では地黄を含む補腎剤が使われることがありますが、胃腸が弱いかたには避けた方が無難でしょう。
⑤ 精神的なストレスを発散できずに、ため込んでしまった場合にも、頑固な咳が続くことがあります。緊張のため胸郭や首周りの呼吸に関わる筋肉の動きに乱れが生じてしまい咳き込むケースです。早寝早起き、適度な運動、規則正しい食生活のもとで、自律訓練法、ヨガ、マインドフルネスなど呼吸法を加えることによって自律神経のバランスが整います。その結果、交感神経過緊張が是正されて咳が和らぐことがあります。漢方では肝鬱(交感神経の緊張)を緩める柴胡、芍薬、香附子、枳実、陳皮などを含む解鬱剤が使用される場合があります。
まとめると、①微かな炎症が残っている場合、②胃腸の働きが低下した場合、③胃腸や呼吸器系が冷えている場合、④老化のスピードが加速し始めた場合、⑤精神的な緊張、ストレスが高まった場合、これらの状況下で頑固な咳が起こりえます。頑固な咳の精密検査を行っても原因がはっきりしない頑固な咳の誘因として生活習慣の是正を行うことで、また場合によっては東洋医学的なサポートを行うことによって症状が好転するケースもあり得ます。
なお、漢方製剤については、個々人によって証が異なりますから、必ずかかりつけの先生にご相談されることをお勧め致します。